今日の日記は、過去三年間に酒米懇談会で発表された講演からの要約です.
利き酒師の講習では高精白の目的は、ぬか部分に含まれる過剰な脂質、タンパク質を除去し、それにより雑味の少ない酒を得るため、と習ったことと思います.では、米タンパク質はどんな風に米粒の中に分布しているのでしょうか?
まずは近畿中国四国農研の稲育研究室の飯田さんの資料から.
白米にはグルテリン、プロラミン、グロブリン、アルブミンの4種類に分類される貯蔵タンパク質が約6〜8%の含まれています。タンパク質はデンプン粒と粒の間の空間にあるプロテインボディーⅠ(PB-Ⅰ)、プロテインボディーⅡ(PB-Ⅱ)と呼ばれる2種のタンパク質顆粒の中に貯蔵されています.
全タンパク質の15〜18%を占めるプロラミンと16kDaグロブリンはPB-Ⅰへ、50〜60%を占めるグルテリンは8%を占める26kDaグロブリンとともに、PB-Ⅱに貯蔵されています.PB-Ⅰは醪内の酵素では消化されにくく、PB-Ⅱは容易に消化されます。ですから私たちにとって主に関係のあるのはPB-Ⅱに蓄積されるグルテリン類と言えるかもしれません.
つぎに、PB-ⅠとPB-Ⅱが米粒のどこに集中しているか?ですが、京大大学院農学研究科、遺伝子工学研究室の増村さんの資料によると、PB-Ⅰは米の外周部、それも背側に多く、PB-Ⅱは米粒の内部つまり胚乳細胞の内側に多く分布しています.実験によると40%以上の高精白米であっても貯蔵タンパク質は一定量含まれています.酵母の栄養成分として一定量のタンパク質は欠かせませんから、貯蔵タンパクの質、量、割合、などが大事なんだろうと思います.
そのため、酒類総研ではH18〜22年の特別研究課題として米タンパク質と清酒醸造について検討しています。情報技術支援部門の橋爪さんが、その途中経過を報告なさっています.
清酒醪における窒素成分の挙動は、原料米の窒素の約55%が溶解し、清酒に30〜33%酵母に22〜25%移行したものと推測され、清酒に移行した窒素成分のうち44〜47%が遊離アミノ酸、残りの大部分はペプチドと思われます.
また、蒸米消化液中に蓄積する高分子ペプチドの由来を調べる実験.(単離したPBを25%のグルコースと共存させ米麹酵素で消化すると、高分子ペプチドが蓄積され始める)では、大部分がイネグルテリンの酸性サブユニットに由来し、N末端に清酒の雑味成分と言われる疎水性ペプチドをくっつけていることが分かりました。この高分子ペプチドに由来する雑味成分は活性炭処理で容易に除去できます.
最後に、精米歩合の違いによる高分子ペプチドの蓄積レベルの比較ですが、90%と80%の間には、各品種とも大きな違いがありますが(90%の場合、タンパク質の消化が進んでおらずどの品種でもペプチド類の蓄積は低いです)、80〜40%の間にはそれほど大きな差はありません。むしろ品種の違いによる差の方が明確で、山田錦は高分子ペプチドの蓄積レベルが明らかに低く、しかも消化時間の経過とともに早くレベルが低下しており、山田錦の酒造好適米としての高評化に関連がありそうです。
と、まぁ教科書ではあっさり2行ぐらいで片付けられてる分野ですが、まだまだ分かんないことってたくさんあるんですね.これから醪におけるこれらペプチドの消化と苦みペプチドの生成について研究が進むようです.
サービス業者の立場から言うとごっつい苦みは願い下げですが、アルコールの苦みとは別の、繊細な苦み要素というのは料理と合わせる時、生きてくる場合が案外多いです.居酒屋従業員のおつむでは、あの繊細な苦みがなにに由来しているのかよくは分かりませんが、米の成分に由来する苦みもあれば、酵母の自己消化に伴う苦みもあると思います.どうせやるなら、不快な苦み成分と快適な苦み成分の違いや閾値まで出してくれたら体験知と照らし合わせてな〜るほど、っておもしろいと思うんですけどね.
追記:飯田さんの資料によると、低グルテリン米を用いることでアミノ酸度の少ない特徴のある酒ができることが確認され、特許も取られているのですが、タンパク質の消化性は酵母の発酵にも大きな影響を与えるため、通常の醸造手法では利用が難しそうです.高精白の時間的、物質的ロスを減らしながら、なおかつ、現在の嗜好の主流である淡麗な味を追求ていく...大事なんですね.びっくりです。
こんな長期の研究して、新たな設備投資して、原料米確保して利益あげなきゃいけないんですから大変です.